- 中小企業における脱炭素要請の実態と法定義務との違い
- 要請を受けた直後に行うべき確認事項と排出量の把握手順
- 電気代・光熱費の削減と両立させて脱炭素を進めるアプローチ
- 自家消費型太陽光などの設備導入を判断するポイント
大手メーカーなどの取引先から「CO2排出量を教えてほしい」「再生可能エネルギーを増やしてほしい」「削減目標を設定してほしい」と言われ、何から手を付ければよいのか迷っている中小企業もあるのではないでしょうか。
ただし、「中小企業も脱炭素が義務化された」と考える必要はありません。
日本商工会議所・東京商工会議所の「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」では、取引先などから脱炭素に関する要請を受けている企業は全体の14.2%でした。製造業では26.0%と全体より高いものの、すべての中小企業が要請を受けているわけではありません。
同調査は全国2,497社を対象に、2026年5月7日~5月29日に実施されたものです。
また、脱炭素に取り組む理由として最も多かったのは「取引先への対応」ではなく、「光熱費・燃料費の削減」の68.5%でした。脱炭素を環境対策だけの追加コストとして考えるのではなく、まず電気代や燃料費を減らす経営改善として進め、その結果を取引先への説明にも活用するのが現実的です。
この記事では、取引先から脱炭素・再エネ対応を求められた中小の製造業や物流会社が、最初に何を確認し、どの順番で対応すればよいのかを解説します。
取引先から脱炭素を要請されている中小企業は14.2%|製造業では26.0%
取引先からの脱炭素要請は広がっていますが、「すべての中小企業が対応を求められている」という状況ではありません。
日本商工会議所・東京商工会議所が2026年7月16日に公表した「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」では、全国47都道府県の2,497社に対し、2026年5月7日~5月29日に調査を実施しています。
その結果、取引先などから脱炭素への取り組みに関する要請を「受けている」と回答した企業は14.2%でした。
一方、業種別では製造業が26.0%と最も高く、大手メーカーなどのサプライチェーンに入る製造業では、全体よりも要請を受けるケースが多いことが分かります。
そのため、製造業を中心に「取引先から言われたので急いで何か設備を入れなければ」と考えてしまうこともあります。
しかし、設備投資を先に決める必要はありません。まず確認すべきなのは、取引先が具体的に何を求めているのかです。
取引先から脱炭素を求められたら、まず何をすればいい?
取引先から連絡を受けたら、最初に次の順番で整理すると進めやすくなります。
- 何を、いつまでに回答するのか確認する
- 電気・燃料など現在のエネルギー使用量を集める
- 自社のScope1・Scope2排出量を把握する
- 電気代削減につながる対策から削減方法を検討する
- 削減実績を残し、取引先が指定する形式で報告する
「脱炭素対応」と言われても、企業によって求める内容は同じではありません。
年間のCO2排出量だけを求めている場合もあれば、電力使用量、再エネ使用量、削減目標、製品単位のカーボンフットプリントなどを求める場合もあります。
そのため、最初に「対象年度」「対象となる拠点」「Scope1・2だけでよいのか」「指定の回答様式があるか」「回答期限」を確認しましょう。
実際に最も多く求められているのは「CO2排出量の把握・報告」
脱炭素要請を受けたからといって、最初から太陽光発電や省エネ設備の導入を求められるとは限りません。
日本商工会議所・東京商工会議所の調査では、要請を受けている355社に具体的な内容を聞いたところ、最も多かったのが「温室効果ガス排出量の把握・報告」58.0%でした。
次いで「再生可能エネルギーの利用」が30.1%、「温室効果ガス排出量の具体的な削減目標設定・進捗報告」が25.1%となっています。
つまり、取引先対応の最初の一歩は「いきなり設備を買うこと」ではなく、自社が現在どれだけCO2を排出しているのかを把握できる状態にすることです。
まずは電気代・燃料代の請求書から始める
中小企業が最初に排出量を把握するときは、すでに社内にある資料から始められます。
工場や倉庫で使用している電気の請求書、ガスや重油などの燃料使用量、社有車や物流車両の燃料使用量などを整理します。
ここから、自社で燃料を燃焼することで生じる排出と、電力会社などから購入した電気の使用に伴う排出を分けていきます。
Scope1・Scope2・Scope3を中小企業向けに簡単に整理
脱炭素の要請を受けると「Scope1」「Scope2」「Scope3」という言葉が出てくることがあります。
Scope1は、自社で燃料を燃やすことなどによる直接排出です。工場のボイラーや、自社で保有・管理する車両の燃料などが該当します。
Scope2は、自社が購入して使用した電力・熱・蒸気などの生産に伴う間接排出です。
Scope3は、Scope1・2以外の、自社の事業活動に関連する他社の排出です。
中小企業から見ると自社のScope1・Scope2であっても、その企業から部品・材料・物流サービスなどを調達している大手企業側から見ると、取引内容に応じてScope3に関係するデータになる場合があります。
このため、大企業が自社のScope3を把握・削減しようとすると、取引先である中小企業に排出量の情報提供や削減を依頼することがあります。
脱炭素に取り組む最大の理由は「光熱費・燃料費の削減」68.5%
取引先から要請を受けると、脱炭素対応を「取引を続けるためのコスト」と捉えがちです。
しかし、日本商工会議所・東京商工会議所の調査では、実際に脱炭素へ取り組んでいる企業1,322社に理由を聞いたところ、最も多かった回答は「光熱費・燃料費の削減」68.5%でした。
「取引先からの温室効果ガス排出量測定・削減要請への対応等」は14.4%です。
つまり、脱炭素を進めるなら、取引先へ説明するためだけの対策をするのではなく、自社の電気代や燃料代も減らせる取り組みを優先することが重要です。
その代表例が、省エネ設備への更新や運用改善、自家消費型の太陽光発電などです。
屋根置き太陽光は「電気代」と「Scope2」を同時に減らせる
工場・倉庫・社屋などで昼間に多くの電気を使用している企業では、屋根に太陽光発電設備を設置し、発電した電気を建物内で使用する「自家消費型太陽光発電」を検討できます。
屋根で発電した電気を自家消費すれば、その分だけ電力会社から購入する電力量を減らせます。
Scope2は購入して使用した電気などに伴う間接排出であるため、購入電力量を減らす屋根置き太陽光は、電気代の削減とScope2削減を同時に検討できる手段です。
ただし、太陽光発電を載せれば必ず最適になるわけではありません。
昼間の電力使用量、休日の稼働状況、屋根の面積や状態、耐荷重、既存設備、将来の屋根改修などを確認し、自社で使える発電量に合わせて設備容量を検討します。
法人向け自家消費型太陽光発電の仕組みについては、法人向け自家消費型太陽光発電の解説をご覧ください。
設備容量ごとの費用については、産業用太陽光発電の費用相場、自社条件での削減額や投資回収の目安は法人向け太陽光発電シミュレーションも参考にしてください。
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物流会社は太陽光だけで全排出量が減るわけではない
物流会社の場合、倉庫や物流拠点で使用する購入電力はScope2ですが、自社で使用するトラックなどの燃料による排出はScope1に該当します。
そのため、物流倉庫の屋根に太陽光発電を設置すれば購入電力由来のScope2は削減できますが、ディーゼル燃料などによる直接排出まで太陽光だけで削減できるわけではありません。
取引先から求められている対象が電力なのか、燃料なのか、物流全体なのかを切り分けることが重要です。
大企業のScope3対応が、中小企業への要請につながる場合がある
大手企業では、自社だけでなくサプライチェーンを含めた温室効果ガス排出量を把握・削減する取り組みが進んでいます。
その過程で、部品・原材料・物流などを担う取引先に対して、排出量の実績把握や削減への協力を求めるケースがあります。
一例がトヨタ自動車です。
トヨタが2026年1月に公表した「グリーン調達ガイドライン」では、取引先に対して拠点でのGHG排出量の実績管理と削減を依頼し、省エネルギー化や再生可能エネルギーの採用などによる削減も求めています。
また、拠点全体のGHG排出量実績や削減の取り組みについて、対象となる取引先には個別に連絡したうえで確認するとしています。
これは「トヨタと取引するすべての企業に同一の数値目標や提出義務がある」という意味ではありません。実際に求められる内容は取引関係や個別の連絡内容を確認する必要があります。
GX-ETSやSSBJは、中小企業に一律の直接義務を課す制度ではない
取引先から脱炭素対応を求められる背景として、GX-ETSやSSBJといった制度を目にすることがあります。
ただし、これらを理由に「中小企業にも脱炭素が一律に義務化された」と説明するのは正確ではありません。
GX-ETSはScope2ではなく「直接排出」が基準
2026年度から本格的に始まったGX-ETSの制度対象は、企業規模そのものではなく、CO2の直接排出量で判定されます。
経済産業省によると、前年度までの直近3年度におけるCO2直接排出量の平均が10万t-CO2を超える事業者が対象です。
したがって、一般的な中小企業に一律にGX-ETSへの参加義務があるわけではありません。
また、屋根置き太陽光で減らす中心は購入電力由来のScope2です。GX-ETSの対象判定に使う直接排出とは別のものなので、「太陽光を設置すればGX-ETSの義務に対応できる」と説明するのも正確ではありません。
SSBJも一般の非上場中小企業への直接義務ではない
SSBJ基準に基づく法定開示は、東証プライム市場の上場企業のうち、時価総額の大きな企業から段階的に義務化されています。
金融庁は、時価総額3兆円以上の企業を2027年3月期から、1兆円以上を2028年3月期から、5,000億円以上を2029年3月期から段階的な適用対象としています。
そのため、一般的な非上場の中小企業がSSBJ基準による有価証券報告書の作成を直接義務付けられているわけではありません。
一方、大企業側がサプライチェーン情報を把握するため、取引先へ排出量データの提供を求めることはあり得ます。
「法律で自社に義務があること」と「取引先から情報提供を求められていること」は分けて考えましょう。
国も大企業と中小企業が一緒にScope3を減らす支援を検討している
国も、取引先だけに対応を求めるのではなく、バリューチェーン全体で排出量を減らす取り組みを進めています。
環境省の令和9年度(2027年度)概算要求には、「Scope3排出量削減のための企業間連携による省CO2設備投資促進事業」が盛り込まれています。
資料では、代表企業と取引先の中小企業等が連携して、省CO2設備を導入する取り組みを支援する考え方が示されています。
ただし、これは2027年度予算の要求段階の内容です。2027年度の予算成立、公募の実施、補助条件などが確定したという意味ではありません。
設備投資を検討するときは「この補助金が必ず使える」ことを前提にせず、正式な予算・公募要領が公表された時点で確認してください。
取引先から要請された中小企業の対応手順
1.取引先から求められている内容を書面で確認する
まず、担当者同士の口頭説明だけで進めず、回答項目・対象年度・期限・提出形式を確認します。
「CO2を減らしてください」という要請でも、実際には排出量の把握だけを求めている場合と、削減計画や再エネ導入まで求めている場合では必要な対応が異なります。
2.電気・燃料の使用量を集める
電力会社の請求書、燃料購入量、ガス使用量などから、自社のエネルギー使用状況を整理します。
工場が複数ある場合は、拠点ごとに分けておくと、その後の削減対策を比較しやすくなります。
3.Scope1・Scope2を把握する
取引先から指定された算定方法がある場合は、その方法を優先します。
特に指定がない場合でも、まず自社の直接排出であるScope1と、購入電力などによるScope2を把握すると、どこから手を付けるべきか判断しやすくなります。
4.コスト削減につながる対策から検討する
設備の運転方法の見直し、省エネ機器への更新、契約電力の見直し、屋根置き自家消費型太陽光など、自社のエネルギーコスト削減につながる施策を比較します。
特に昼間の電力使用量が多い工場・倉庫では、太陽光発電で購入電力量を減らせる可能性があります。
5.実績を残して取引先へ説明できる状態にする
太陽光発電を導入した場合も、「設置した」という事実だけでなく、年間の発電量や自家消費量などを記録できる状態にしておくことが重要です。
取引先が排出量や削減実績を求めた際に、数字で回答しやすくなります。
屋根置き太陽光は「取引先対応だけ」を理由に決めない
取引先から再エネ利用を求められたとしても、それだけを理由に太陽光発電の容量や導入方式を決めるべきではありません。
自家消費型太陽光発電では、屋根の状態とともに、昼間の電力使用量を確認し、発電した電気をどの程度自社で使えるかを見ることが重要です。
同じ業種や同じ規模の工場でも、操業時間、休日、屋根条件、既存の受変電設備などによって適切な設備容量や費用は変わります。
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取引先からの脱炭素要請に関するよくある質問
中小企業にも脱炭素対応が法律で義務化されたのですか?
中小企業という理由だけで、すべての会社に脱炭素や再エネ導入が一律に義務付けられたわけではありません。
2026年度の日商・東商調査でも、取引先等から脱炭素要請を受けている企業は14.2%です。
一方、取引先との契約や調達方針の中で、排出量の報告や削減への対応を個別に求められる場合があります。法律上の義務と取引上の要請を分けて確認してください。
取引先からCO2削減を求められたら、最初に太陽光発電を導入すべきですか?
設備導入を最初に決める必要はありません。
まず取引先が求めている情報を確認し、自社の電気・燃料使用量とScope1・Scope2排出量を把握しましょう。
そのうえで、電気代削減とScope2削減を同時に進められる条件であれば、屋根置き太陽光発電を選択肢として比較します。
屋根置き太陽光を導入するとScope3を削減できますか?
自社から見ると、屋根置き太陽光で購入電力量を減らすことは主にScope2の削減につながります。
一方、その会社の製品やサービスを購入する取引先から見ると、サプライチェーン上の排出としてScope3に関係する場合があります。
どのScope3カテゴリに該当するかは、製品・サービスや取引形態によって異なります。
太陽光発電を設置すればGX-ETSにも対応できますか?
同じものではありません。
GX-ETSの対象判定はCO2の直接排出量を基準としています。一方、屋根置き太陽光が直接減らす中心は、購入電力由来のScope2です。
太陽光発電は企業の脱炭素対策の一つですが、「太陽光を設置すればGX-ETSの義務を満たせる」と考えないようにしましょう。
取引先から再生可能エネルギーの利用を求められました。何を確認すればよいですか?
まず、再エネ利用率など具体的な数値目標があるのか、導入方法が指定されているのか、対象拠点や期限が決められているのかを確認してください。
屋根置き太陽光を検討する場合は、取引先の条件だけでなく、昼間の電力使用量、屋根の状態、設置可能容量、費用、投資回収などを合わせて判断することが重要です。
まとめ|取引先対応と電気代削減を別々に考えない
取引先から脱炭素・CO2削減を求められても、最初から大きな設備投資をする必要はありません。
まずは要請内容を確認し、電気や燃料の使用量を集め、Scope1・Scope2を把握するところから始めます。
日本商工会議所・東京商工会議所の2026年度調査では、脱炭素に取り組む理由として最も多かったのは「光熱費・燃料費の削減」でした。
そのため、取引先対応だけのためにコストをかけるのではなく、自社の電気代削減にもつながる対策を選び、その削減結果を取引先への説明にも活用するという考え方が重要です。
工場・倉庫・社屋で昼間に多くの電気を使用している場合は、自家消費型の屋根置き太陽光発電もその選択肢になります。
ただし、適切な容量や費用は建物ごとに異なります。自社にどの程度の設備が合うのかを判断する場合は、1社だけの提案で決めず、複数の施工会社から発電量・自家消費量・費用・投資回収の試算を比較すると判断しやすくなります。